長年、鍵師として仕事をしていると、様々な鍵のトラブルに出会います。その中でも、特に頭を抱えてしまうのが、「お客様が自分で何とかしようとして、かえって事態を悪化させてしまった」というケースです。特に、針金や安全ピンといった、本来の目的とは違う道具で鍵穴をいじってしまった後の現場は、本当に悲惨なものです。先日も、「玄関の鍵を失くし、ネットで見た方法を試したけれど、どうにもならなくなった」という依頼で駆けつけました。現場の鍵穴を覗き込むと、その内部は無残に傷だらけ。おそらく、硬い針金で力任せに内部を掻き回したのでしょう。繊細なピンは曲がり、シリンダーの壁面には深い引っ掻き傷が刻まれていました。さらに悪いことに、奥の方で何かが引っかかっています。どうやら、針金の先端が折れて、内部に詰まってしまっているようでした。こうなってしまうと、私たちの持つ特殊なピッキングツールも全く役に立ちません。正常な状態であれば数分で開けられたはずの鍵が、もはや破壊する以外の選択肢を失ってしまったのです。お客様に状況を説明し、ドリルでシリンダーを破壊してドアを開け、錠前一式を新しいものに交換することになりました。お客様は、「最初から素直にプロを呼んでおけば、開錠料金だけで済んだのに…。錠前交換まですることになって、何倍も高くついてしまった」と、うなだれていました。これは、決して珍しい話ではありません。私たちは、鍵の内部構造を熟知し、それぞれの鍵に合わせた専用の道具と、指先に宿る長年の経験を頼りに仕事をしています。それは、見よう見まねでできるものではありません。鍵のトラブルは、病気と同じです。自己流の民間療法で悪化させる前に、専門医である私たち鍵師に相談してください。それが、あなたの時間も、お金も、そして大切な家の安全も守る、最も賢明な選択なのです。