鍵を失くして家に入れない、という緊急事態において、「自分の家の鍵なのだから、どんな方法で開けても問題ないだろう」と考えるかもしれません。しかし、針金などを使って鍵を開けようとする行為は、たとえ対象が自分の家の鍵であっても、思わぬ法的リスクや社会的なトラブルを招く可能性があることを知っておくべきです。日本では、「特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律」、通称「ピッキング防止法」という法律が施行されています。この法律は、正当な理由なく、ピッキングに用いることができる特殊な工具(ピックやテンションレンチなど)を所持することを禁止しています。もちろん、針金そのものが規制の対象ではありません。しかし、鍵を開ける目的で針金を加工し、それに適した形状にした場合、「指定侵入工具」と見なされる可能性がゼロとは言い切れません。万が一、その状態で警察官に職務質問を受け、合理的な説明ができなかった場合、あらぬ疑いをかけられることにもなりかねないのです。さらに大きな問題は、周囲からの「誤解」です。もしあなたが、夜中に自宅アパートのドアの前で、針金を使って鍵穴をいじっている姿を、他の住民や通行人に見られたらどうなるでしょうか。事情を知らない人から見れば、その光景は空き巣がピッキングを行っている現場そのものです。警察に通報され、駆けつけた警察官に囲まれて事情聴取を受ける、といった事態に発展する可能性は十分に考えられます。たとえ最終的に自分の家であることが証明されたとしても、その間に失われる時間や、ご近所からの不審な目といった、精神的なダメージは計り知れません。このように、素人による鍵開け行為は、単に鍵を壊すという物理的なリスクだけでなく、法的なリスクや社会的な信用の失墜といった、より深刻な問題を引き起こす危険性をはらんでいます。安全で正当な手段、すなわちプロの鍵屋に依頼するという選択が、あらゆるリスクからあなた自身を守ることに繋がるのです。
針金と鍵開け、その行為が持つ法的リスク