スマートキーが登場する以前、自動車の鍵に革命をもたらしたのが「キーレスエントリーシステム」、通称「キーレス」です。それまで、雨の日も風の日も、鍵穴に物理的な鍵を差し込んでドアを開け閉めしていたドライバーにとって、ポケットの中のキーのボタンを押すだけで、離れた場所からドアのロックを操作できるという体験は、まさに未来の到来を感じさせるものでした。このキーレスエントリーの仕組みは、比較的シンプルです。キー側に内蔵された送信機と、車両側に搭載された受信機で構成されています。ドライバーがキーの「ロック」または「アンロック」のボタンを押すと、キーから固有のIDコードを含んだ信号が電波(または赤外線)で発信されます。車両側の受信機がこの信号を受け取ると、そのIDコードがシステムに登録されたものと一致するかを照合します。一致すれば、ドアロックを制御するアクチュエーターに指令が送られ、施錠または解錠が行われるのです。このシステムは、キーから車への「一方通行」の通信であるのが特徴です。そのため、必ずドライバーが「ボタンを押す」という明確な意思表示と操作を必要とします。このキーレスの登場により、私たちのカーライフは格段に便利になりました。例えば、夜間の駐車場で自分の車を見つけやすくするためにハザードランプを点滅させたり、買い物の荷物で両手がふさがりそうな時に、事前にドアロックを解除しておいたりといった、新しい使い方が生まれたのです。また、物理的な鍵穴の使用頻度が減ることで、鍵穴の摩耗やいたずらを防ぐという副次的な効果もありました。スマートキーの登場によって、今ではやや古い技術と見なされることもありますが、キーレスエントリーが「鍵を差し込む」という長年の常識を打ち破り、今日のワイヤレスキー技術の礎を築いた、偉大な一歩であったことは間違いありません。
一歩先の利便性「キーレスエントリー」の仕組み