キーボックスで後悔した私の苦い体験
地方に所有している別荘の管理のために、私はキーボックスを利用していました。たまに訪れる友人や、清掃業者さんとの鍵の受け渡しが面倒だったからです。ホームセンターで買ってきた、ごく普通のダイヤル式のキーボックス。まさか、あの便利な箱が、私の穏やかな日常を脅かすことになるとは、夢にも思っていませんでした。ある夏の日、いつものように別荘を訪れると、室内に何か違和感を覚えました。物が散らかっているわけではないのですが、空気感が違う。気のせいかと思い、その日はそのまま過ごしました。しかし、数日後、近所の方から「最近、見かけない車が別荘の前に停まっていることがある」と知らされたのです。そこで初めて、私はキーボックスの暗証番号が、別荘の住所の番地と同じであることに気づき、血の気が引きました。慌てて警察に相談し、防犯カメラの映像を確認してもらうと、そこには信じられない光景が映っていました。見知らぬ男が、夜中にキーボックスのダイヤルをいじり、数分後には堂々と中から鍵を取り出し、家の中へ入っていくのです。幸い、金品などの被害は大きくありませんでしたが、知らない人間が自分のプライベートな空間に侵入し、くつろいでいたという事実は、何物にも代えがたい恐怖と屈辱でした。私が安易に設定した暗証番号と、キーボックスへの過信が、犯罪者に侵入の機会を与えてしまったのです。すぐにキーボックスは撤去し、防犯性の高い鍵に交換しましたが、あの時の「自分の家が安全ではない」という感覚は、今も心の奥に深く突き刺さっています。キーボックスは危ないと頭では分かっていても、「自分だけは大丈夫」と思ってしまうその油断こそが、最も恐ろしい敵なのだと、私はこの苦い体験を通じて痛感しました。